こんにちは。
今回は、化学や物理で頻繁に登場する「エネルギー」や「仕事」が積分で求められる理由について考えてみたいと思います。
物理はともかくとして、化学を理解するのに必要な微積分は決して難解ではありません。高校数学で学習する微積分と、簡単な微分方程式が理解できれば、化学で登場する数式の大半には対応できると思います。
しかし、高校生の方でしたら、「今まさに微積分を習っているところだから、わかるわけないぞ!」という方も多いと思います。
高校の化学や物理の説明に微積分が使われないのは、微積分の学習が不十分という理由です。
なので、今回は化学や物理でよく出てくる「位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)」を題材にしながら、微積分も同時に復習していただければ幸いです。(ただ、数学に関しての知識説明は最小限にとどめます。(笑)
微分とは?
微分とは、数式の中の文字(変数)が変化したときに、数式の値がどれくらい変化するか(変化率)を表す指標になります。数式を微分した後の式は導関数と呼ばれ、これはある地点での接線の傾きになるといったほうが、馴染みが良いかもしれません。
言葉だとわかりづらいので、具体的な例を挙げてみましょう。
上に示したのは\( f(r) = r^2 \)のグラフです。中学校で学習する、2乗に比例する関数ですね。
このグラフの見た目だけで解釈すれば、rが大きくなるほど、増加率が大きいという風に見て取れますね。逆にrが小さくなるほど、減少率が大きいということがわかります。
次に、\( f(r) \)を微分した導関数のグラフを見てみましょう。
導関数は\( f'(r) = 2r \)ですね。中学校で最初に習う、rに比例する関数になります。
二つのグラフを比べてみて頂ければわかりやすいのですが、\( f(r) = r^2 \)のグラフでは、図をみたイメージでしか増加率がわかりませんでした。
しかし、導関数を計算すると、導関数の値がそのまま増加率になるため、
rの値によって増加率がどのように変化するかが計算で求められてしまいます。
\( f'(r) = 2r \)のグラフでは、
\( r\)が負の範囲では\( f'(r)\)が負なので\( f(r)\)は減少する、
\( r\)が正の範囲では\( f'(r)\)が正なので\( f(r)\)は増加する、
ということがわかるかと思います。また、増加率もrが大きくなるにしたがって増えていくこともわかりますね。
積分とは?
積分とは、グラフで囲まれた面積を求めるときに便利です。計算方法はこれも数学で習いますが、微分とは逆の計算をすれば積分計算となります。
そして、微分操作をした後の関数を導関数と呼ぶのに対し、積分操作をした後の関数を原始関数と呼びます。
詳しくは触れませんが、面積を求めるときに必要な定積分について、先ほどの\( f(r) = r^2 \)のグラフを用いて考えてみましょう。
このグラフは\( f(r) = r^2 \)の\( r>0\)(rが正)の部分のみを抜き出しています。
グラフの灰色の部分の面積は数学の記号で\( \int_b^a f(r) dr \)で表され、
bからaまでの定積分 にあたります。
計算方法は、\( f(r) \)の原始関数\(F(r) \)を求め、\( F(a) – F(b)\)を計算します。
実際に計算してみると、
\( f(r) = r^2 \)の積分操作は、微分の逆になるので\[ F(r) = \frac{1}{3} r^3 + C\] となります。定積分を計算すると、
\[ \int_b^a f(r) dr = F(a) – F(b) = ( \frac{1}{3} a^3 + C ) – ( \frac{1}{3} b^3 + C ) = \frac{1}{3} (a^3 – b^3) \]
となります。
積分定数であるCは定積分の過程で打ち消し合って消えてしまいます。この辺は、数学で詳しく学んでください。(力不足により十分に説明が出来ず申し訳ありません。)
ちなみに…
何故定積分をすると面積が求まるのか?ということなのですが、これを説明するには数学をじっくり説明したり理解する必要があるのでここでは省きます。が、こちらが比較的わかりやすい説明で書かれていたので、参考にしてください!
位置エネルギーとは?
数学の前置きが長くなってしまいましたが、ようやく本題に移ります。笑
位置エネルギーを考える上で役に立つ例えが、ばねです。高校の物理でばねの問題が出てきたときは嫌で仕方なかったのですが…
ただ、これを理解できれば位置エネルギーに関する疑問は解消されますし、
もっと想像しにくい問題が出てきても解けるようになりますので、
ここだけは一緒に乗り切りましょう!
自然長のときはばねは動かない = エネルギーが低い
ばねの長さが変わるともとに戻りたい = エネルギーが高い
位置エネルギーとは、文字通り、位置によって決まる(変わる)エネルギーです。
ばねの場合は、ばねの先端がどこにあるかで、エネルギーが変わります。
より簡単に考えられるように、
重力の影響を受けない横向きのばねについて考えてみましょう。
壁につけられたばねは、ある長さ(自然長)のとき
これ以上伸びようとも縮もうともしなくなります。
つまり、この自然長の状態が、一番ばねにとって居心地がいい安定した状態です。
エネルギーが低い状態ですね。
また、このときばねに働く力はありません。
しかし、自然長からばねを伸ばそうとしたり、縮めようとしたときには、
ばねが元の長さに戻ろうとする力が働きます。
力の大きさは、伸びた(縮んだ)距離に比例して大きくなります。
つまり、伸びれば伸びるほど(縮めば縮むほど)
元の状態に戻ろうとする力が強い、すなわちエネルギーが高い状態になります。
図を用いて理解してみましょう。
力のかからない自然長の状態に対して、
戻ろうとする力の働く縮んだ状態 伸びた状態はエネルギーが高くなっています。
これは、先ほど見た2乗に比例する関数と同じグラフですね!
つまり、ばねの位置エネルギーは自然長を原点とみた時の2乗に比例する関数と考えることができます!
これが、位置エネルギーの直感的理解になります。
エネルギーが積分で求められるのはなぜ?
ばねの位置エネルギーについて、まず結果だけを示しました。
直感的理解ができるだけでも、高校の物理はぐっとわかりやすくなります。
しかし、この結果は実際には積分を用いて求められる結果なのです。
実際、位置エネルギーのすべてが2乗に比例する関数ではありません。
ただ、これから説明する内容が理解できれば、どんな位置エネルギーの式も暗記せずに求めることができますよ!
位置エネルギーは保存力によって生み出される!
まずは、保存力という言葉について理解をしましょう。
保存力とは、他の条件に関係なく位置が決まれば常に働き続ける力というイメージです。
ばねの場合は、自然長からの伸び(縮み)が大きくなるほど
元に戻そうとする抵抗力(弾性力)が働きます。
これは、何度繰り返しても同じ力が働きますし、伸びた(縮んだ)長さが再現できれば同じ方向に同じ大きさで力が働きます。
そして、ばねを伸ばした状態で維持したいなら、
この保存力に逆らう力で引っ張り続けなければいけません。
ばねの場合は、元に戻ろうとする力に逆らって押し込んだり引っ張ったりすることで、
ばねに位置エネルギーを蓄えることができます。
外から逆らった(仕事をした)分位置エネルギーがたまる
仕事とは、何かにエネルギーを授けたり、奪ったりすることだということを
こちらの記事で触れました。
ばねの場合は、保存力(抵抗)に逆らって仕事をすることで位置エネルギーがたまります。
よく、仕事には符号があって、
「正の仕事なのか負の仕事なのかわからない!」ということが多いのですが、
他の物にエネルギーを与える(蓄えさせる)→正の仕事
他の物のエネルギーを奪う→負の仕事
と覚えておけば、計算をしなくても感覚的に検討がつくと思います!
エネルギーが積分で求められる理由
では、ここから実際に積分でエネルギーを求めてみます。
まず、直感的には、保存力(抵抗)が大きいほど必要な(仕事)エネルギーは大きくなる!ということを頭においてください。
2つの例を示しながら説明してみます。
抵抗が常に一定の場合
まずは、保存力が場所に依らず常に同じ大きさで働き続ける場合です。
重力は地球上のどの位置でもほぼ同じなのでこれに当たります。
例えば、自動車を手で10m押すのに対し、20m押すときには、2倍の仕事が必要なのは感覚的にわかりますね(同じことを2回しなければいけないので…)
つまり、抵抗が一定の場合、物を動かす距離が長いほど、必要な仕事は大きくなります。
もちろん、抵抗が大きければそのほうが仕事は辛くなるので、
必要な仕事Wは、力Fと移動距離dを掛け合わせたものになります。
\( W(d) = Fd \)
以下にその図を示しますが、
これは、移動距離dと力Fの関係を表したグラフの面積(長方形)に他なりません。
抵抗(保存力)が位置によって変化する場合
では、ようやくばねに掛かる力とエネルギーが積分で結びつきます(長かった…笑)
ばねが自然長から伸びたり縮んだ距離を変位\( x \)と表すことが多いです。
ばねが元に戻ろうとする力は変位に比例することが知られています。これをフックの法則と呼びます。
縮めば縮むほど、伸びれば伸びるほど、元に戻りたい力は大きくなるってことですね。
つまり、抵抗力\( F \)は、比例定数を\( k \)とすると、
よくある比例式\( F(x) = –
kx \)と書けるのです。中学校の初めで習う式ですね。
ここで、物体を自然長からdの位置まで伸ばした時の必要な仕事量(蓄えられる位置エネルギー)を求めようと思うのですが、
先ほどとは違い、抵抗力は伸ばしている最中にもどんどん大きくなっていきます。
そのため、増える抵抗力にその都度移動した距離を掛けていかなくてはいけません…
足し合わせる長方形の面積がどんどん増えていく、と考えるといいでしょう。
今回は右側を正の方向にとり、距離d縮めた場合の変位は-dになります。
グラフを見ると、抵抗力が、ばねが縮むに従い大きくなっているので、
その分細かに移動した距離を掛けていくと、最終的に三角形の面積になることがわかります。
念のため積分を用いて計算してみましょう。
\[
\int_{-d}^0 F(x) dx \\
= \int_{-d}^0 -kx dx \\
= \left[-\frac{1}{2}kx^2\right]^0_{-d} \\
= 0-\left[-\frac{1}{2}k(-d)^2\right] \\
= \frac{1}{2}kd^2
\]
となって、三角形の面積と同じになりますね!
この式を見ると、原点を0とした時のばねのエネルギーは、
縮んだ場合も伸びた場合も、
距離の2乗に比例するということがわかります。
実際の位置エネルギーは、2乗比例だけではなく
様々な種類が出てきますが、
どれも同様に、
力と距離の関係を積分することで求めることができます!
まとめ
- 保存力は、位置が決まれば常に働いている力である!
- ばねが自然長の時はエネルギーが低い!
縮んだり伸びたときは元に戻ろうとするのでエネルギーが高い! - 保存力(抵抗)に逆らって仕事をすることで位置エネルギーがたまる!
抵抗が大きいほど必要な仕事もたまるエネルギーも大きくなる! - 位置エネルギーは力と距離の関係を積分することで求められる!
凄く長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。
追伸
化学でよく出てくる位置エネルギーに、クーロンポテンシャルがあります。
これは、ふーくんとせいちゃんがくっつくことで落ち着く、あのエネルギーです。
これも、実際に力を積分することで数式としてあらわすことができるので、
後日まとめようと思います。